春に逝った母

暮らしの中で

周囲を明るく照らし いつも元気な母が逝った

年齢とともに 多くの病気を抱えていた母だったが 3年前に重い脳梗塞を起こし

その日から今日に至るまで ずっと長い闘病生活を送っていた

折しも世間では新型コロナが蔓延し 何よりも人と交わることが楽しみだった母が

家族との面会はおろか 親しい友人や近所の人たちとの交流すらも許されない状況に

頭の中で何を思い 何を考えていたのだろうか

寝たきりで 声を発することすらできず ただただ天井や壁を

ひたすら見つめるだけの入院生活はどんなに苦しかっただろうか

70年近くも前に この山里に嫁ぎ 父とともに農業をしながら3人の子どもを育て

当たり前のように  舅と姑 のいる大所帯を支え

歯を食いしばって明るく生きてきた

町中から嫁いだこともあったし 色白で美人 オシャレも大好きだった母

その生活は貧しかったが 小学校の参観日にはそれなりの支度に身を包み 学校にやって来た

そんな母の姿を同級生から口々に羨ましがられると

なぜか自分でもうれしくなる自慢の母だった

山里というのは とかく閉鎖的なコミュニティになりがちなのだが

後から嫁いでくる女性たちの面倒見もよく 誰からも慕われているその様子をいつも見ていた

それだけに 人と会うことすら叶わなかった 寂しい晩年を思うと

本人もだろうが自分としても悔しく  その看取りにも大いに悔いが残る

ひと雨ごとに春めく今日この頃 福寿草があちらこちらに咲き誇り

今年は桜の開花も早いという

せめて 母のように明るく晴れやかに開花した桜の様子を 

もう一度だけでも見せてやりたかった

昔から何かしら行事があると その日は必ずといっていいほど天気が良く

いつも「晴れ女」と言われていた母だった

そのせいか 葬儀の朝も  遠く浅間山は 前日の雨で 白く雪を被っていたが

空には雲ひとつなく それはそれは抜けるような青空が広がり

母を思わせるような天気の良いその日が  旅立ちの日となった

では、

エンジョイ! 春

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